詳細検索

考える

時代区分

  • 分野

  • タイトル

  • 本文

  • 投稿者

VIEW 15

1

2023.09.26

第1章オスもメスもバラバラでいきる哺乳類

逃げ回り、弱者だった祖先

今いる哺乳類1は、モグラのような小さな生きものから進化したといわれている。「哺乳類の祖先は土中や木葉の下に隠れ棲み、ヘビやトカゲ、トリなどの天敵から逃げ回る弱者」だったといえば意外に思うだろうか。

哺乳類というと、ライオンやゾウ、シカやイヌなど地上を堂々と闊歩(かっぽ)するものをまず思いつくだろうが、それらは例外的な進化を遂げたものたちである。実は、現在でも哺乳類の4分の3はネズミなどのげっ歯類やコウモリなどの「逃げ回る生物」だ。つまり、哺乳類とは、生物界では「弱者」であり、逃げ回ることで生き延びてきた動物なのだ。

弱者が手にした「武器」

では、そんな弱者の哺乳類にとって、ある特徴が、生き延びるための大きな武器(ぶき)となった。結論からいうと、それは、お腹の中で赤ちゃんを育てる「胎内保育2」を武器としたのである。その武器はどういう利点があるのだろうか。
まず、赤ちゃんにとって、母親のお腹の中はどこよりも安全な場所であること。外敵からの危機に晒されることなく成長できる。卵生動物では卵を親が守り抜かないとすぐに外敵のエサになる。それからすると、胎内は天国だ。

また、胎内保育は出産後の子育て期間を延ばした。生後に子育て(授乳などを含む)をすることで、常に親の目が赤ちゃんに行き届き、より確実に子孫を残せるようになった。

武器を得たことで生まれた「弱点」

しかし、いい面だけではない。胎内保育が機能することである「弱点」が生まれた。
例えば先に述べた卵生動物では、卵の多くは常に外敵から狙われる状態にある。その条件下では、無事生まれるものは限られる。ある意味、出生数に制限が掛けられているといっていい。生まれてきたものは運がよかったといってしまえばそれまでだが、種の個体数が外敵によって調整されるという面では理に適っているといえるし、自然の中にある厳しい摂理といってもいい。だが哺乳類はその摂理から外れ、生まれる前の時期と生まれた間もない時期を胎内保育と子育てで生き延びられるようにした。それは視点を変えれば、今までなら生き残れなかった子も生き残れるようになった、ということなのだ。これは、種の「弱者性」といったものを冗長させた。これは新しい「弱点」である。

「弱点」をどう克服するか

一般的に、魚類や両生類などの卵生動物は、大量に卵を産む。そのほとんどは成体(大人)になるまでに外敵に食べられてしまい、生き延びるのはほんの一握りだ。そうして弱者が淘汰され、適応力の高いものだけが生き残ることで、生き残ることに関して秀れた子孫を残す。これは「淘汰適応3の原理」という考え方だ。

ところが哺乳類は、胎内保育によってその原理が働かなくなった。これによって、哺乳類全体で適応力が低下し、その種はそのままでは長期的に生き残ることができない。子どもたちを生き延びさせようとして獲得した胎内保育が、種全体では生き延びる力を低下さる可能性を生む――という矛盾(不整合4)のある問題を抱えてしまった。では、われわれの祖先はどのようにしてその問題を克服しようとしたのか。それを次で考えてみよう。

また、胎内保育は出産後の子育て期間を延ばした。生後に子育て(授乳などを含む)をすることで、常に親の目が赤ちゃんに行き届き、より確実に子孫を残せるようになった。

また、胎内保育は出産後の子育て期間を延ばした。生後に子育て(授乳などを含む)をすることで、常に親の目が赤ちゃんに行き届き、より確実に子孫を残せるようになった。

脚注

  1. 1.哺乳類

    出現したのは今から2億2500年前といわれている。恐竜がいた時代(ジュラ紀等)ではネズミくらいの大きさだったとされる。

  2. 2.胎内保育

    生物学では胎生という。本文ではよりイメージしやすいように「胎内保育」と言い換えている。

  3. 3.淘汰適応

    ダーウィンの進化論を引き合いに出して「生き残る生物は変化に対応できた生き物」という一説を見かけるが、ダーウィンはこのようなことを述べていない。ダーウィンが示したのは「環境に適応した形質を持つ個体の生存確率は高くなる」とだけである。

  4. 4.不整合

    本文では今後、不整合という用語が頻出する。不整合とはまさしく整合していない状態を指す。それは単なる整っていないだけを意味するのではなく、不整合を解消するきっかけを含んだものである。参考:内圧と外圧

VIEW 15

1

記事にご意見のある方は下記よりコメントをお願い致します。

    お名前(必須)

    メール(非公開)(必須)

    コメント

    あなたへのおすすめ